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変圧器の公式まとめと導出【エネルギー保存則】【インダクタンス】【電磁気】

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変圧器とは何かについて説明し、そこから逆起電力と巻数の比について述べたあと、インダクタンスを用いて逆起電力を具体的に表し、さらに磁束の漏れがないことを利用してインダクタンスの比の関係を導きます

最後に、交流回路におけるエネルギー保存則を確認します

変圧器とは?

変圧器というのは数のような装置です

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変圧器。説明の都合上図のように磁束の向きや電位差の向きをとる。全磁束の向きは鉄芯の磁束の向きと同じ方向にとり、磁束が増える電流の方向を正とする。電流の正の向きに進んだ時の電位の増加を電位V_1,V_2と定義すると、図のようになる。

上図のように向きをとっていない場合符号が変わったりするのでご注意ください

ポイントは、

磁束φが共通(漏れを無視できる)と仮定することが多い

ということです 以下、全てでこれを仮定して考えます

以下、左の番号を1、右を2として添字をつけて表します

逆起電力と巻数の比が一定

まず、以下の性質が成立します

\frac{V_1(t)}{N_1}=\frac{V_2(t)}{N_2}

証明

鉄芯の磁束の巻数倍が全磁束である

ゆえに、ファラデーの電磁誘導の法則より、

V_1=-\frac{dΦ_1}{dt}=-N_1\frac{dφ}{dt}

V_2=-\frac{dΦ_2}{dt}=-N_2\frac{dφ}{dt}

よって\frac{V_1(t)}{N_1}=-\frac{dφ}{dt}=\frac{V_2(t)}{N_2}

符号に注意です。図とあっているか確かめてください。

 

インダクタンス

逆起電力

つぎに、インダクタンスを用いてより具体的に磁束と電流の関係を調べます

1,2の自己インダクタンスをL_1,L_2とし、相互インダクタンスをMとすると

V_1=-L_{1}\frac{dI_1}{dt}-M\frac{dI_2}{dt}

V_2=-M\frac{dI_1}{dt}-L_{2}\frac{dI_2}{dt}

証明

インダクタンスの定義より

Φ_1=L_{1}I_1+L_{12}I_2

Φ_2=L_{21}I_1+L_{2}I_2

だが、いま、電流が正の方に流れると他方の磁束が増加するように向きを決めているのでL_{12}=L_{21}=Mである

ゆえに、これとファラデーの電磁誘導の法則より、

V_1=-L_{1}\frac{dI_1}{dt}-M\frac{dI_2}{dt}

V_2=-M\frac{dI_1}{dt}-L_{2}\frac{dI_2}{dt}

インダクタンスの比

インダクタンスの関係について以下が成立します

\frac{M}{N_1N_2}=\frac{L_1}{N_1^2}=\frac{L_2}{N_2^2}

ゆえに、これらをすべて定数aと置くことで、

M=aN_1N_2

L_1=aN_1^2

L_2=aN_2^2

と表せ、鉄心の磁束は

φ=a(N_1I_1+N_2I_2)...A

証明

前節の議論から、鉄芯の磁束を用いて

N_1φ=Φ_1=L_1I_1+MI_2

N_2φ=Φ_2=MI_1+L_2I_2

と表せる

ゆえに

\frac{L_1}{N_1}I_1+\frac{M}{N_1}I_2=φ=\frac{M}{N_2}I_1+\frac{L_2}{N_2}I_2...①

I_1≠0=I_2の場合、①より

\frac{L_1}{N_1}I_1=\frac{M}{N_2}I_1

\frac{L_1}{N_1^2}=\frac{M}{N_1N_2}...②

逆にI_1=0≠I_2の場合、①より

\frac{M}{N_1}I_2=\frac{L_2}{N_2}I_2

\frac{M}{N_1N_2}=\frac{L_2}{N_2^2}...③

②、③より確かに

\frac{M}{N_1N_2}=\frac{L_1}{N_1^2}=\frac{L_2}{N_2^2}

ゆえに

M=aN_1N_2

L_1=aN_1^2

L_2=aN_2^2

と表すと、鉄芯の磁束はaを用いて

φ=\frac{Φ_1}{N_1}=\frac{L_1I_1+MI_2}{N_1}=a(N_1I_1+N_2I_2)

となり、式Aの形で表せる

注意点 

変圧器に使われるコイルの長さをlとしても、ソレノイドコイルのつくる磁場の公式

H=nI=\frac{NI}{l}

を適用することはできません

つまり、これを重ね合わせて

φ=BS=μ(\frac{N_1I_1}{l_1}+\frac{N_2I_2}{l_2})S

などとすることはできないということです (実際この形は式Aの形になっていない)

ゆえに自己インダクタンスも、いつもの通り

L_1=\frac{μN^2S}{l_1}

とすることはできないです

ちなみに最も簡単な近似は、鉄芯の長さをLとし、鉄芯内で磁場の強さが一様と仮定して

φ=μ\frac{(N_1I_1+N_2I_2)}{L}S

となります(a=\frac{μS}{L}となる)

エネルギー保存

最後に、エネルギー保存則と言われるものを導きます

コイル1の方に交流電源を、コイル2の方にインピーダンスZをつなぐ。すると、電圧がいずれも振動数が等しい*1交流電流となり、二つのコイルの一周期で電流に対してした仕事W_1,W_2の和が0となる*2

W_1+W_2=0

ゆえに平均消費電力\bar{P_1}, \bar{P_2}*3の和が0となり

\bar{P_1}+\bar{P_2}=0

つまり、一周期で平均してみると、変圧器でエネルギーが生産されたり消費されることはない。ゆえに、系全体をみると、一周期の平均では、交流電源において生じたエネルギーがインピーダンスでそのまま消費されている。

よって、特に、インピーダンスZが抵抗のみから構成されている場合は、左右の回路の電圧、電流の実効値V_{e1},V_{e2},I_{e1},I_{e2}について

V_{e1}I_{e1}=V_{e2}I_{e2}

最大値V_{M1},V_{M2},I_{M1},I_{M2}

V_{M1}I_{M1}=V_{M2}I_{M2}

となる。

証明

交流電源によりコイル1の電位差はV_1=V_{M1}sinωtと表せる

ゆえに、\frac{V_1}{N_1}=\frac{V_2}{N_2}より

V_2=\frac{N_2}{N_1}V_{M1}sinωt

このように、コイル2は角振動数ωの交流電源の役割を果たす

ゆえに、電流はインピーダンスZを用いて

I_2=\frac{N_2}{N_1Z}V_{M1}sin(ωt-α)

などと表せる。

故に、コイル2の一周期分の仕事は

W_2=\int_{0}^{T}I_2V_2dt=\int_{0}^{T}\frac{N_2^2V_{M1}}{N_1^2Z}V_{M1}sin(ωt-α)sinωtdt...④

一方、

V_1=-L_{1}\frac{dI_1}{dt}-M\frac{dI_2}{dt}

より

\frac{dI_1}{dt}=-\frac{V_1}{L_1}-\frac{M\frac{dI_2}{dt}}{L_1}=-\frac{V_{M1}}{L_1}sinωt-\frac{M\frac{N_2ω}{N_1Z}V_{M1}cos(ωt-α)}{L_1}

なので積分定数I_0とおいて両辺積分すると

I_1=\frac{V_{M1}}{L_1ω}cosωt-\frac{M\frac{N_2ω}{N_1Zω}V_{M1}sin(ωt-α)}{L_1}+I_0

故に、コイル1の一周期分の仕事は

W_1\\=\int_{0}^{T}I_1V_1dt\\=\int_{0}^{T}(\frac{V_{M1}}{L_1ω}cosωt-\frac{M\frac{N_2ω}{N_1Zω}V_{M1}sin(ωt-α)}{L_1}+I_0)V_{M1}sinωtdt\\=\int_{0}^{T}-\frac{M\frac{N_2ω}{N_1Zω}V_{M1}sin(ωt-α)}{L_1}V_{M1}sinωtdt\\=\int_{0}^{T}-\frac{MN_2V_{M1}^2}{N_1ZL_1}sin(ωt-α)sinωtdt\\=\int_{0}^{T}-\frac{N_2^2V_{M1}^2}{N_1^2Z}sin(ωt-α)sinωtdt\\=-W_2

ただし、Tは周期なのでsinωtcosωtsinωtの項は積分して0になることに注意せよ

また、最後から二番目の等号でインダクタンスの比の関係

\frac{M}{L_1}=\frac{N_2}{N_1}

を、最後の等号で④をそれぞれ用いた

よって

W_1+W_2=0

である

故に、コイル1,2の平均消費電力

\bar{P_1}=-\frac{W_1}{T}

\bar{P_2}=-\frac{W_2}{T}

の和も0となる

ゆえに、変圧器は平均的には仕事をせず、

交流電源の一周期あたりの仕事=インピーダンスの消費電力の一周期積分

特にコイル2に繋がれているのが抵抗だけの時は、実効値を用いて、抵抗の平均消費電力V_{e2}I_{e2}が交流電源の平均的な仕事V_{e1}I_{e}に等しく、最大値においてもV_{M1}I_{M1}=V_{M2}I_{M2}であるというよく知られた関係が得られる

まとめ

磁束の漏れがない変圧器を考えると、逆起電力と巻き数の比が両コイルで等しいという関係や、自己・相互インダクタンスと巻き数の比の関係が得られる。交流回路においては、一周期の平均的なエネルギー収支でみると変圧器はエネルギー供給も消費もしないことがわかる。このことから、左右の両回路においてのエネルギーが平均的に保存する。

 

全体的に、符号の向きが混乱しがちになるので気をつけてください。

 

*1:位相は、ずれ得る

*2:実際は、コイル1がエネルギーを消費して、その分コイル2がエネルギーを生産している

*3:消費電力=-仕事率として一緒に考える