大学入試徹底攻略

東大生が幅広く高校物理、高校数学の解説をします

メニューページへ

【近似】振り子って本当に微分方程式解く前に近似していいの?→意外な結論に【力学】

←力学のメニュー

単振り子の振れ角が微小なとき、運動が単振動に近似できることは有名な事実です

ですが、その近似が本当に正しいのか疑問に思いませんか?

具体的には、

sinθ≒θ

という近似を、運動方程式に適用して良いのでしょうか?

運動方程式を近似してから解いた解は、本当に近似解になっているのでしょうか?

実は、この近似は微小角という以外にある条件が必要です

この記事では、それを明らかにします

単振り子の運動方程式

f:id:vasewell:20210303190734p:plain

振り子

図のような単振り子を考えてください

うでの長さはl,おもり質量はmとし、おもりは質点とみなします

角度θ(t)は図のようにはかります

まず、円運動の接線方向の運動方程式より、

-mgsinθ=ml\frac{d^2θ}{dt^2}...①

教科書的な近似方法

θが微小角の場合を考えます

教科書的な近似方法は、sinθ≒θという近似を運動方程式に代入することで、

-mgθ=ml\frac{d^2θ}{dt^2}...②

となり、角振動数ω=\sqrt{\frac{g}{l}}の単振動型の運動方程式になるというものです。

疑問点

-mgsinθ≒-mgθ

は一次近似として正しいのは確かです。つまりその瞬間の力の近似としては正しい。でも、それを運動方程式に代入してその微分方程式を解くことで得られた解θ(t)は本当に真の解の近似になっているのでしょうか?これは自明ではありません。

 

「単振動に近似できる」とはどういうことか?

そもそも、解が単振動に近似できるとはどういうことでしょうか?これは、数値の近似ではなく、関数の近似であることに注意してください。

そこで、\bar{θ(t)}を②による近似解(単振動)、θ(t)をそれとは微妙に違う①による厳密解とします

まず素朴に思い浮かぶのは、

θ(t)-\bar{θ(t)}が微小なとき、\bar{θ(t)}θ(t)の近似である」というものですが、これはそもそもθが微小であるからおかしいでしょう。なぜなら、\bar{θ(t)}が微小ならなんでも近似解になることになってしまうからです。

 

そこで\frac{θ(t)-\bar{θ(t)}}{θ(t)の最大値}が微小であるという定義が思い浮かびます

その物理量のスケールとの比によって誤差を見るのは常識ですね

これなら確かに、\bar{θ(t)}θ(t)の近似であると言えるでしょう

意外な事実

ところが、この定義の下では、\bar{θ(t)}θ(t)の近似ではない

 

これは振り子の周期が厳密には振り子の長さに依存する(等時性の破れ)ことを知っていればすぐにわかります

どういうことか?

 

単振り子の運動の厳密解はわからなくても、厳密解も周期運動であることはエネルギー保存からわかります。速度が場所によって定まっているからですね

 

ゆえに、厳密解にも、三角関数でないながらも周期が存在します

ところが、等時性が破れているということは、厳密解の周期は近似解の周期

\bar{T}=2π\sqrt{\frac{l}{g}}

とずれがあるということです

たとえずれが微小でも、何周期も繰り返せば、厳密解と近似解の間で位相の差はいくらでも大きくなります

たとえば、振れ角の最大値をθ_0とすると、θ(t_1)=θ_0付近なのに、\bar{θ(t_1)}=-θ_0付近となるようなタイミングt=t_1が存在するということです

これでは、「\frac{θ(t)-\bar{θ(t)}}{θ(t)の最大値}が微小である」という近似の定義を満たしていないことは明らかです

\frac{θ(t)-\bar{θ(t)}}{θ(t)の最大値}=2

だからです

より正確な説明

それではやはり単振り子を単振動で近似するのは無意味だったのでしょうか?いえ、そうではありません

 

前節の考察を思い出してください

矛盾が生じるのは、長い時間を経た後であるということがわかります

 

そこで、θは単振動による近似は初期時刻からそれほど時間が経っていない時には単振動に近似できる、という仮説がたてられます。これを証明しましょう。

証明

証明の方針

厳密解を直接計算するのは難しいので、力学的エネルギー保存則から、θと\frac{dθ}{dt}の関係を導き、dt=θの関数×dθの形を作り、両辺の積分で経過時間を表す。被積分関数の差から、近似解と厳密解の、同じ角に至るまでの経過時間の差が微小であることを確認し、近似解が厳密解の近似になっていることを確かめる。

本編

簡単のため、初期条件として、t=0の時微小角θ=θ_0でおもりを静かに離した場合を考える

すると、近似解は

\bar{θ(t)}=θ_0cosωt

ただし、ω=\sqrt{\frac{g}{l}}

このとき、\bar{v(t)}=-l\frac{\bar{θ(t)}}{dt}=lθ_0ωsinωt

ゆえに、\bar{v(t)}^2\\=l^2θ_0^2ω^2sin^2ωt\\=l^2θ_0^2ω^2(1-\frac{\bar{θ(t)}}{θ_0}^2)\\=gl(θ_0^2-\bar{θ}^2)...③

厳密解については、エネルギー保存則より、

-mglcosθ_0\\=-mglcosθ(t)+\frac{1}{2}mv(t)^2

v(t)^2=2gl(cosθ(t)-cosθ_0)...④

ここで{-θ_0}\lt{θ_1}\lt{θ_0}という任意のθ_1を考える

 そして、時刻t_1,\bar{t_1}をそれぞれ厳密解、近似解における初めて角度がθ_1 に到達した時刻とする。定義から

θ(t_1)=θ_1=\bar{θ}(\bar{t_1})

である

この時刻までに速度はいずれの解においても負なので、この時間には③、④より

\bar{v}=-\sqrt{gl(θ_0^2-\bar{θ}^2)}

v=-\sqrt{2gl(cosθ-cosθ_0)}

速さをdθとdtで書くことにより

-\frac{ld\bar{θ}}{\sqrt{gl(θ_0^2-\bar{θ}^2)}}=dt

-\frac{ldθ}{\sqrt{2gl(cosθ-cosθ_0)}}=dt

となる

両辺を、これらの式が使える、つまり速度が負であるt=0からt=t_1あるいはt=\bar{t_1}までの時間で積分すると、

\bar{t_1}\\=\int_{t=0}^{t=\bar{t_1}}dt\\=\int_{\bar{θ}=θ_0}^{\bar{θ}=θ_1}-\frac{ld\bar{θ}}{\sqrt{gl(θ_0^2-\bar{θ}^2)}}\\=\int_{\bar{θ}=θ_0}^{\bar{θ}=θ_1}-\sqrt{\frac{l}{g}}\frac{1}{\sqrt{(θ_0^2-\bar{θ}^2)}}d\bar{θ}

t_1\\=\int_{t=0}^{t=t_1}dt\\=\int_{θ=θ_0}^{θ=θ_1}-\frac{ldθ}{\sqrt{2gl(cos^2θ-cos^2θ_0)}}\\=\int_{θ=θ_0}^{θ=θ_1}-\sqrt{\frac{l}{g}}\frac{1}{\sqrt{2cos^2θ-2cos^2θ_0}}dθ\\=\int_{θ=θ_0}^{θ=θ_1}-\sqrt{\frac{l}{g}}\frac{1}{\sqrt{θ_0^2-θ^2}}(1+(θやθ_0の二次以上の項))dθ

となる

ゆえに、Δtを経過時間の差とすると

Δt\\=|t_1-\bar{t_1}|\\=|\int_{θ=θ_0}^{θ=θ_1}-\sqrt{\frac{l}{g}}\frac{1}{\sqrt{θ_0^2-θ^2}}*(θやθ_0の二次以上の項)dθ|\\=|\int_{θ=θ_0}^{θ=θ_1}-\sqrt{\frac{l}{g}}*(θやθ_0の一次以上の項)dθ|\\=\sqrt{\frac{l}{g}}*(θやθ_0の二次以上の項)

となる。積分区間もまた微小であることに注意。

t=t_1やt=t_1における角速度は

\sqrt{\frac{g}{l}}*(θやθ_0の一次以上の項)

のオーダーなので、厳密解と近似解の差のオーダーは

Δθ\\=\sqrt{\frac{g}{l}}*(θやθ_0の一次以上の項)*Δt\\=(θやθ_0の三次以上の項)

ゆえに、厳密解と近似解の相対的な誤差は

\frac{Δθ}{θ_0}=(θやθ_0の二次程度のオーダー)

程度となり、これは微小の二次の量なので無視する近似が可能であると言える

また、θがθ_0から-θ_0まで達した後の折り返しにおいても同様の近似が繰り返されると考えると、一周期の間では近似解

θ(t)=θ_0cosωt

が厳密解を近似していると言える

ゆえに、近似解の周期

\bar{T}=2π\sqrt{\frac{l}{g}}

も厳密解の周期の近似になっていると言える

 

さらに重りが何往復かした場合を考える

θ_1=-θ_0の場合を考えることにより、半周期でのずれも

\frac{Δθ}{θ_0}=(θやθ_0の二次程度のオーダー)

であることがわかる。一周期でもオーダーは同じなので、N周期程度繰り返されたときの誤差は

\frac{Δθ}{θ_0}=N*(θやθ_0の二次程度のオーダー)

である。例えば、Nが\frac{1}{θ_0}程度なら誤差はθ_0程度の微小な量になる

つまり、時間がそれほど経っていなければ、単振り子は単振動で近似できることがわかる

だが、Nをいくらでも大きくすれば、いずれ誤差は無視できない量になる

 

ちなみに、厳密解をもっと精密に調べると、単振動による近似は前述の大雑把な評価よりもう少し精度が良いようです

まとめ 

微小角単振り子の単振動による近似は、あまり時間が経っていない時までは正しい

少なくとも一周期の間は正しいので、周期の公式\bar{T}=2π\sqrt{\frac{l}{g}}も良い近似になる

ただし十分時間が経つとずれが大きくなる