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【コンデンサー】多重極板の電荷分布まとめ【電磁気】

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コンデンサーの極板に溜まる電気量を、特に三枚以上の極板が存在する場合にどう求めるのかについて解説します。

下図のような、面積がどれも等しい平行平板コンデンサーを考えます。

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多重極板コンデンサ

この時、それぞれの極板の両面にそれぞれいくらの電荷が分布しているかを求める問題を考えましょう。

ただし、生じる電場が一様であると近似できるような、極板間距離が極板の大きさに比べて十分小さい場合を考えます。

以降、図に特に書かれていなくても、アースや回路にいずれかの極板が繋がれている場合も一般的に含んで考えます。図では4枚の極板を描いていますが、一般の枚数を考えます。

使う法則一覧

これらは必ずしも全部使うわけではなく、重複もあります。つまり、二通り以上の求め方もありうるので注意してください。

電荷保存則

電荷は導体を伝ってのみ移動するということです。光電効果でも起きない限り、理由なく電子が空気中に飛び出ていくことはないと考えて良いです。

キルヒホッフの第二法則とQ=CVあるいはガウスの法則

アースされたときや、回路に繋がれた場合にキルヒホッフの第二法則を使うことができます。電位差からQ=CVを用いると、電荷についての条件が得られます。あるいは電位差から電場がもとまり、そこからガウスの法則を用いて電荷分布についての式が立ちます。

エネルギーが最小化される

これは高校物理で説明されることが少なく、疑問に思っている人が多いです。大雑把にいうと、電荷分布は、電場のエネルギーが最小となるように変化するという原則です。

電場のエネルギー密度は

\frac{1}{2}εE^2

と表せるのですが、これが最小ということは、余分な電場が生じないような電荷分布が実現するということです。といっても、具体的には以下の三つを理解すれば良いです。

向かい合う電荷の和はゼロ

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向かい合う電荷の和はQ+(-Q)=0

上の図のように、向かい合う電荷の和はゼロになります。もしそうでない場合、外にはみ出る電場が存在することになるので、エネルギーが余分に高くなってしまうことからわかります。

外側の電荷は等しく、全電荷の半分である

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外側の電荷はQ=Qで等しい

外側の極板の外側の電荷は、電荷が等しくなります。

また、内側の電荷は打ち消し合うので、外側の電荷は全電荷の合計の半分になります(図の場合は、全電荷が2Qとなる)。

これも、もし電荷の偏りがある場合、電場の歪みが大きくなって、エネルギーが余分に高くなることからわかります。電気力線が互いに反発し合うイメージからもわかると思います。

外側の電荷は0でも矛盾しないなら0である

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外側の電荷が0

外側の極板の外側の電荷が0であっても以上の法則に矛盾しないのなら、0になります。外側に余分な電場が生じると、エネルギーが高くなるからです。例えば、アースされている時は電荷がアースへ逃げていきます。

重ね合わせの原理とガウスの法則

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多重極板コンデンサ

図のような、各極板の電荷の量、つまり両面の電荷の合計がわかっている場合を考えます。

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各極板について図のように考える

各極板j=1,2,...nについて、上の図のような電荷分布と、それが作る電場を仮想的に考えます(実際の分布ではない)。電荷分布は両面で等しく、したがって電場も両面で等しく、ガウスの法則を満たしています。

実際の電場は、実はこの仮想的な電場を下図のように各極板について足し合わせたものになります。

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各電場は極板を貫くようにして書く。実際には貫いているわけではないが仮想的にこのように書く。

各部分の電場は、この電場の重ね合わせによって得られますが、逆向きの矢印は逆符号になるので注意してください。また、極板の電荷が負の場合は当然吸い込まれる向きの電場になります。

このようにして実際の電場が求まるので、そこから逆算してガウスの法則から実際の電荷分布も求めることができます。

 

例題

生じる電場は一様であると近似できるような、極板間距離が極板の大きさに比べて十分小さい場合を考えます。

例題1

次の(1),(2),(3)の場合の電荷分布を求めよ。ただし、縦線は面積Sで形が同じ三枚の孤立した平行平板極板であり、極板間距離はx,yとし、アースされていない極板の下に書かれているのはその極板の両面の電荷の合計である。

(1)

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アースしない場合

(2)

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片方のみアースする場合

(3)

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両方アースする場合

(1)

解1

外側の電荷は全電荷Qの半分なので、\frac{Q}{2}である。ゆえに、左右の極板の内側の側面は-\frac{Q}{2}で、中央の極板は両面とも\frac{Q}{2}である。

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解答

解2

重ね合わせの原理を用いると、電場は

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中心極板だけなので楽

のようになるので、外側の電荷は共に\frac{Q}{2}となる。

ゆえに、左右の極板の内側の側面は-\frac{Q}{2}で、中央の極板は両面とも\frac{Q}{2}である。

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解答

(2)外側の電荷を0と置いてみると、右の極板の電荷が両面0になるので、対面の電荷も0になる。ゆえに中央の極板の左側はQ、その対面は-Qとなる。これで矛盾しないので、下図のようになる。

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アースされているので、外側の電荷=0と置いてみる

(3)地球は非常に大きな導体とみなせるので、回路が形成されたと見ることができ、キルヒホッフの第二法則を用いることができる

すると、電位差が左右の極板で0とならなければならないので、電場の大きさの比は極板間距離の逆比となり、電場が求まる。故にガウスの法則から中央の極板の電荷分布もその比に従う。外側の電荷は0で良いので、下図のようになる。

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地球を回路素子とした回路とみなす

例題2 

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四重極板


上の図のような、面積Sで形が同じ四枚の孤立した平行平板極板を考える。両面の合計電荷が図のように与えられているとして、電荷分布を求めよ。

解1 連立方程式で解く方法

変数が8つある

電荷分布を上の図のようにおくと、

電荷保存則より、

q_A+q_B=Q_1

q_C+q_D=Q_2

q_E+q_F=Q_3

q_G+q_H=Q_4

向かい合う電荷の和は0なので、

q_B+q_C=0

q_D+q_E=0

q_F+q_G=0

(これでは、未知数が8つに対して7つしか式がないので解が定まらない!)

外側の電荷は等しいので

q_A=q_H

これを解くと、下図のような分布になる

 

計算方法

連立方程式を計算しなくても、外側の電荷=全電荷/2であることからq_Aとq_Hが求まるが、それを知らなかった場合は以下のように計算する

まず電荷量保存則の4式の辺々を加えると、

q_A〜q_Hの和=Q_1〜Q_4の和

となるが、向かい合う電荷の和がゼロなので左辺の中項が消えて

q_A+q_H=Q_1〜Q_4の和

となる

これと、q_A=q_Hより、q_A=q_H=(Q_1〜Q_4の和)/2

あとは順番に求まる

解2 重ね合わせの原理で解く方法

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コンデンサ

電場は上図の重ね合わせである。ただし、

E_j=\frac{Q_j}{2Sε_0}、j=1,2,3,4

である

故に、四つの極板で区切られた5つの空間を左から順に、空間1、2、3、4、5とすると、それぞれの電場は、左向きを正にとり、

\frac{Q_1+Q_2+Q_3+Q_4}{2Sε_0}

\frac{-Q_1+Q_2+Q_3+Q_4}{2Sε_0}

\frac{-Q_1-Q_2+Q_3+Q_4}{2Sε_0}

\frac{-Q_1-Q_2-Q_3+Q_4}{2Sε_0}

\frac{-Q_1-Q_2-Q_3-Q_4}{2Sε_0}

であるから、ガウスの法則から電荷分布は下図のようになる

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解2の方がこの場合はおそらく楽ですね

楽そうに解くことをこころがけてください

まとめ

コンデンサーの電荷分布の問題で主に使う法則は

  • 電荷量保存則
  • キルヒホッフの第二法則
  • Q=CVやガウスの法則
  • エネルギーが最小化されるという法則
   →向かい合う電荷の和は0、外側の電荷は等しい、外側の電荷は0で矛盾しないなら0