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キルヒホッフの法則の証明と回路の一般論【電磁気】

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 回路が従うべき一般法則をまとめます。*1

 

 回路とはなんなのかについて軽く説明した後、回路において電圧とはどういうものなのかについて定義したのち、回路の理論を展開するにあたって必要な仮定とキルヒホッフの第一、第二法則を確認します。

 

回路とはなんなのか

 回路は中学理科ですでに扱っていますが、それだけでこの問いにはっきりと答えられるでしょうか?再び捉え直してみましょう。

 普通はこのようにループ状になっています

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もうちょっと複雑な例としてこんなのもあります

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 回路とは導線に繋がれた回路素子(電池、抵抗、コンデンサー、コイル、など)の集合体だと定義できそうです。つまり、回路は回路素子同士が導線によって関連するシステムであると言えるでしょう。

 さて、回路素子の物理的な状態はどのような量で表せるでしょうか?まず、各点の電流の大きさと向きが定義できます。それと、回路素子における電位差が定義できます。そして、各回路素子の内部には電場が存在します。

これらを計算するために必要な法則が、

  • 回路が従う一般的な法則
  • 各回路素子の性質(法則)

です。今回は回路の一般論なので前者のみ注目します。

 

回路の電位や電圧とはなんなのか

 ところが、ここで一つ注意するべき点があります。それは、回路で用いる「電圧」や「電位」という言葉は電磁場の理論で用いられる「電位」という言葉とずれている部分があるということです。というのも、電位というのは静電場で定義される概念ですが、回路の周辺は一般に静電場ではないからです。

 そこで、回路における電位差というものをまず定義しましょう。

回路における電位差は、その回路素子や導線周辺のみをみたときのその瞬間を静電場のように切り取った電位差とする。

 では、回路全体での電位は、どうなるのでしょうか?回路全体での電位も、一瞬を切り取れば定義できるのでしょうか?それはいつもできるわけではありません。ファラデーの電磁誘導の法則によるループ状の誘導電場が存在する場合は、全体で電位が定義できないことになります。なぜなら、電場のする仕事が電荷のループ一周運動で0にならないため、ループ電場では位置エネルギーが定義できないからです。そこでこのように局所的電位差を定義しました。

仮定

 では、具体的にどのような一般法則に支配されているのでしょうか?その前に、まず以下のような仮定を置きます

仮定0:導体内部での変位電流を無視する

仮定1:アースなどしない限り電荷が回路の外へ出入りすることはない

仮定2:自由電子の加速*2は瞬間的に完了する。なぜなら、仕事を受けて加速された瞬間、非常に短い無視できるほどの時間で電荷分布が調整され、電場を生じさせることによってやはり仕事率ゼロ*3の状態が回復するからである。

 「仮定」は、回路を考える上でこのような現象しか扱わないという制限と思ってください。

 回路の一般法則は、この仮定とマクスウェル方程式から証明できます

回路の一般法則(キルヒホッフの法則

 回路が満たす一般法則としてキルヒホッフの第一法則と第二法則があります

キルヒホッフの第一法則

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図のように回路内の任意の分岐点に流れ込む電流をI_{in-j}j=1,2,...n,流れ出す電流の和をI_{out-j},j=1,2,...mとすると、前者の和は後者の和に等しい

\displaystyle \sum_{j=1}^{n}I_{in-j}=\displaystyle \sum_{j=1}^{m}I_{out-j}

キルヒホッフの第二法則

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矢印の方向に行くと電位が上昇するような向きで電位差を測る。電位差を測る向きは揃える。この電位差を測る向きと右ねじの法則の関係になるように磁束の向きをとる。図のような場合、磁場は下向きが正の方向である。

時間と共に変動する磁場中で回路が運動している場合を考える*4。図のように回路内の任意の閉じた経路に対して、その経路の周る向きを定義し、それに沿って各回路素子の電位差V_j、j=1,2,...nを定義する*5。nは回路素子の個数である。回路の周る向きが右ねじの法則の向きになるような方向を磁場の正の方向とし、それを磁束Φ(t)の向きを定義する*6。すると、

\displaystyle \sum_{j=1}^{n}V_j-\frac{dΦ(t)}{dt}=0

キルヒホッフの第二法則について、疑問に思った方がいらっしゃるかもしれません。\frac{dΦ(t)}{dt}という余計な項がついていると。これについてはのちの記事で説明します。

証明

証明は一部高校数学を超えます

キルヒホッフの第一法則の証明

回路の分岐点の電荷は0のままで増えたり減ったりすることはないと仮定すれば*7電荷保存則より、

\displaystyle \sum_{j=1}^{n}I_{in-j}=\displaystyle \sum_{j=1}^{m}I_{out-j}

 である。

キルヒホッフの第二法則の証明

ファラデー-マクスウェルの式

\vec{▽}×\vec{E}=-\frac{∂\vec{B}}{∂t}

ストークスの定理を用いて、

\oint_{C(t)}\vec{E}・\vec{dr}=-\int_{S(t)}\frac{∂\vec{B}}{∂t}・\vec{dS}...①

ただし、C(t)は定義した回路の周る向きに沿った積分であり、S(t)は磁束の正の向きを正としてとる。

 一方、磁束の定義より

dΦ(t)=d\int_{S(t)}\vec{B}・\vec{dS}=dt\int_{S(t)}\frac{∂\vec{B}}{∂t}・\vec{dS}+\int_{dS(t)}\vec{B}・\vec{dS}

 これに①を代入して、

dΦ(t)=-dt\oint_{C(t)}\vec{E}・\vec{dr}+\int_{dS(t)}\vec{B}・\vec{dS}...②

\oint_{C(t)}\vec{E}・\vec{dr} は局所的な電位差を周回積分したものだから

\oint_{C(t)}\vec{E}・\vec{dr}=-\oint_{C(t)}dV*8

これを②に代入して

dΦ(t)=dt\oint_{C(t)}dV+\int_{dS(t)}\vec{B}・\vec{dS}...③

 微小な電流要素I\vec{dr}が速度\vec{v}で運動している時、微小時間dtでローレンツ力が電子にする仕事dW*9

dW=(\vec{v}×\vec{B})・\vec{Idr}dt

である

この仕事を仮定2により打ち消す電場が生じる。それによって生じる局所的な電位差は

dV=(\vec{v}×\vec{B})・\vec{dr}

これと、回路素子の電位差を合わせて

\oint_{C(t)}dV=\oint_{C(t)}(\vec{v}×\vec{B})・\vec{dr}+\displaystyle \sum_{j=1}^{n}V_j=\oint_{C(t)}(\vec{v}×\vec{B})・\vec{dr}+\displaystyle \sum_{j=1}^{n}V_j

③に代入すると

dΦ(t)=dt\displaystyle \sum_{j=1}^{n}V_j+dt\oint_{C(t)}(\vec{v}×\vec{B})・\vec{dr}+\int_{dS(t)}\vec{B}・\vec{dS}

 最後の二項が打ち消し合うことは

dt(\vec{v}×\vec{B})・\vec{dr}=dt(\vec{dr}×\vec{v})・\vec{B}=-\vec{dS}・\vec{B}

であることからわかる

 故に

dΦ(t)=dt\displaystyle \sum_{j=1}^{n}V_j

\displaystyle \sum_{j=1}^{n}V_j-\frac{dΦ(t)}{dt}=0

より示された。*10

 キルヒホッフの第二法則の磁束の微分の項は、ファラデー-マクスウェル式により生じるループ電場による効果と、導線の運動によりローレンツ力が電子に仕事をすることに起因する効果の二つをなぜかひとまとまりに表現できています。その便利さの代わりに、証明はかえって少し込み入ったものになりました。

まとめ

  • 回路とは、回路は回路素子同士が導線によって関連するシステムであり、各点に電流と局所的な電位差が定義できる
  • 電荷分布が十分短い時間で調節され、電子の受ける仕事率が0となるように回路の内部電場が形成される
  • キルフホッフの法則

\displaystyle \sum_{j=1}^{n}I_{in-j}=\displaystyle \sum_{j=1}^{m}I_{out-j}\\\displaystyle \sum_{j=1}^{n}V_j-\frac{dΦ(t)}{dt}=0

が成立する

 

*1:なお、ここでは古典論的な考察にとどめ、量子論的な説明は一切含めないものとします。古典論はそれ自体で完結した理論なので矛盾は生じませんが、現実と異なる部分があるということは了承ください。とくに自由電子の振る舞いについてはあくまでもモデルとお考えください。

*2:導線の一次元世界で見た場合の加速。

*3:「仕事率」とは、導線内の一次元的な世界で見た仕事率。つまり、力の導線方向成分のみを見る。

*4:普通入試問題では導体棒が運動しているがここでは回路、特に導線が運動していると表現することにする

*5:ただし、回路素子に加わるローレンツ力による起電力は無視できるとする。あるいは、回路素子jが磁場中を運動しているなどしたら、それにより生じる起電力はV_jに含めないものとする

*6:ただし、回路素子にコイルが含まれていても、普通コイルを貫く磁場を回路の磁束には含めない。それにより生じる電位差は回路素子の電位差に含まれているからである。

*7:コンデンサーの場合など近くに反対符号の電荷が存在して電気力線が全て回収でもされない限り、電荷が分岐点に貯まれば導線内の電子に力を及ぼすだろう。これのような場合は仮定2により無視できる

*8:周回積分なので静電場の通常の電位の定義では0になる

*9:導線内の一次元世界での仕事。実際には磁場は仕事をしない。

*10:磁場中を動く導体棒に生じる起電力、例えばV=lvBは第二項に含まれる