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極板間引力の本当の導出法【静電エネルギー】【電源に繋がれていた場合】【電磁気】

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極板間引力の公式

F=\frac{1}{2}QE

教科書に載っていないにもかかわらず、時々入試問題に登場します

これの導出として、静電エネルギーと、釣り合いの外力のした仕事との関係が頻繁に使われます

ところが、この導出はいつでも使えるわけではなく、問題があるのです

そこで、よくある導出を確認した後、その問題点を指摘し、本質的な理解の仕方を説明します

よくある導出

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釣り合いの力で極板を微小に移動させる

上の図のように、極板が帯電しており、他と繋がっておらず電荷が一定とします。そして、極板間引力と限りなく釣り合う力Fによって微小Δdだけ極板を移動しましょう。正確には、Fは極板間引力よりわずかに大きいが、そのずれをいくらでも小さくすることで、極板の速度が限りなく小さい場合を考え、極板がΔdだけ移動した時点での極板の運動エネルギーが無視できるようにします。

Fを図のように外向きにとります。

すると、静電エネルギーの変化は

ΔU=Δ(\frac{Q^2}{2C})=(-\frac{Q^2}{2C^2})(-\frac{εS}{d^2})Δd

微分\frac{dU}{dd}を考えて、合成関数の微分法を使うと楽。つまり、合成関数U(C(d))を考え、dU=U'(C)C’(d)ddを用いる。微分と一次近似の関係はこちら

C=\frac{εS}{d}をもちいてCを消去すると、

ΔU=\frac{Q^2Δd}{2εS}

釣り合いの力がした仕事がΔUに等しいので、釣り合いの力は

FΔd=ΔU=\frac{Q^2Δd}{2εS}

F=\frac{Q^2}{2εS}

ただし、Fの正の向きをΔdが増加する向きにとったことに注意する

Q=εES

を用いると、

F=\frac{QεES}{2εS}=\frac{QE}{2}

極板間引力は釣り合いの力Fと反対向きに同じ大きさだから、大きさは\frac{QE}{2}で向きは下向きである

一次近似の扱いに慣れているかがポイントですね

vasewell.hatenablog.com

「微小な仕事」もポイントです

vasewell.hatenablog.com

 

問題点

この導出の問題点は、極板が回路などに繋がれておらず、Qが一定であるという場面でしか使えないということです

ですが、実際の入試問題では、回路に繋がれたコンデンサーの極板間引力が平気で出題されます

その場合もF=\frac{1}{2}QEの公式は成り立つのですが、この導出で理解していると、それが分からず、混乱してしまうはずです

例えば、コンデンサーが起電力で繋がれた場合、全く違った形で導出されることを確認しましょう

起電力に繋がれた場合

起電力だけの場合

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起電力Vに繋がれた場合

上の図のように起電力Vに繋がれた場合を考えましょう

すると、極板を同様に微小なだけ動かすと、電荷も微小に変化します。なので、起電力に繋がれていない場合とはエネルギー収支が変わってしまいます。ところが、それでも同様にF=\frac{1}{2}QEが成り立つことを確認しましょう。

まず、静電エネルギーの変化は、電位差が一定なので、

ΔU=Δ(\frac{1}{2}CV^2)=-\frac{1}{2}V^2ε\frac{SΔd}{d^2}...①

電荷の変化量は

ΔQ=Δ(CV)=-Vε\frac{SΔd}{d^2}

ゆえに起電力Vがする仕事

ΔW_V=VΔQ=-V^2ε\frac{SΔd}{d^2}...②

回路全体としてのエネルギー収支は

FΔd+ΔW_V=ΔU

これと、①、②より

FΔd\\=-ΔW_V+ΔU\\=V^2ε\frac{SΔd}{d^2}-\frac{1}{2}V^2ε\frac{SΔd}{d^2}\\=\frac{1}{2}V^2ε\frac{SΔd}{d^2}

V=Edを代入して、からQ=εESを代入すると

FΔd=\frac{1}{2}E^2εSΔd=\frac{1}{2}EQΔd

F=\frac{QE}{2}

となり、起電力が繋がれていない場合と同様の結果になる

抵抗も存在する場合

ちなみに、起電力の他に抵抗がさらに直列に繋がれていた場合も同様の結果になります

なぜなら、抵抗Rがする負の微小仕事

ΔW_R=-\int RI^2dt=-\int_{Q}^{Q+ΔQ}RIdQ

であり、このオーダーはRI*ΔQです

ところが、極板の速度を限りなく遅くする極限を考えているので、時間は限りなく長い

故に、電流も限りなく0に近くなっています

よって、RI*ΔQは微小の1次の量ではなく、限りなく0に近い量になるので、抵抗がない場合と同様のエネルギー収支になり、極板間引力も同じ値になります

抵抗の電位差RIも限りなく0に近いので、コンデンサーの電位差が一定なことも同様であることに注意してください

正しい理解の仕方

それでは、これらはなぜ同じ値を示すのでしょうか?様々な回路それぞれのケースにおいてこのような証明をいちいち別々に確かめなければならないのでしょうか?

誘導がついているときはそれで良いですが、そうでない場合も、結局

F=\frac{1}{2}QE

が成り立つので、これを公式として覚えておいてください

本質的な理解としては、以下のようになります

 

極板を拡大してみると、表面の電荷の層が見えます

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表面の電荷がx=0からδに分布している

x軸を図のようにとり、x=0からx=δに電荷が一様に分布していると仮定しましょう。ただし、δは極めて小さいとします

まず、層の左側では電場は0で、右側ではE=\frac{Q}{εS}であることがわかります

一方、層の内部では、0<d<δとし、ガウスの法則をx=0とx=d<δで囲まれた部分に適用することで、計算できます。具体的には、囲まれた部分の電荷Q\frac{d}{δ}であり、x=dの面にのみ一様電場が存在するので、電場も外の電場に比べて\frac{d}{δ}倍されたものになります。故に電場は以下のグラフのようになります。

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xとEの関係

つまり、電荷が感じる電場は、平均的にはE_外=\frac{Q}{εS}ではなくその半分の\frac{Q}{2εS}=\frac{E_外}{2}であることがわかります。故に、極板間引力はクーロン力

F=\frac{QE_外}{2}

となります

 

この説明は、導体の表面にのみ電荷が分布するということと矛盾するように感じるかもしれませんが、ミクロの領域では量子力学的な効果を考えなければならず、説明するのは難しいです。高校物理の範囲内としては「δが極めて小さいので電荷分布は表面とみなせる」というように納得してください。

 

あるいは、点電荷のクーロンの法則を直接つかって積分するやり方もあります

kagakunojikan.net

 試験場における思い出し方としては不向きですが、こちらの方がすっきりする人もいるかもしれません

 

いずれにしろ、以上のように「極板間引力はあくまでも電荷が電場から受けるクーロン力が原因である」と理解すれば、回路やアースに繋がれていても、多重極板で両面に電荷が分布している場合でも、関係なくF=\frac{1}{2}QEが成り立つと理解できます。導出においてエネルギー収支を使ったとしても、電荷と電場が力を決めているというのが本質的理解です。公式として導出の誘導がなくてもすぐに言えるようにしましょう。教科書に載っていない公式ですが、導出の誘導がある問題以外では、入試本番では断りなく使ってしまいましょう。

 

また、エネルギー収支から導出するを誘導問題のときは、回路全体についてのエネルギー収支を見落としなく考えるようにしましょう。

まとめ

  • 極板間引力は常にF=\frac{QE}{2}である
  • ところが、エネルギー収支による導出法は、回路に繋がれているか、どんな回路に繋がれているか、によって変わりうるので、回路に繋がれていない場合のみを導出するのでは不十分な理解になってしまう
  • 本質的にはクーロン力であるので、繋がれた回路とは無関係にQとEによって決まるというのがポイント
  • F=\frac{QE}{2}は導出できるだけでなく公式として暗記すべき
  • エネルギー収支から考える誘導問題においては、回路全体のエネルギー収支を考える

参考文献

以上のような話は、ファインマン物理学の電磁気学に詳しく書かれているので、気が向いたらぜひ読んでみてください